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Lubricate us with mucus. ──2nd season 盈則必虧編

   汝自己のために何の偶像をも彫むべからず

( ゚Д゚)<差異と不死2

「〔武器と道具の区別に対する〕第二の反論は、第一の逆で、より複雑である──速度は武器に劣らず道具にも属していて、決して戦争機械の専売特許ではないのではないか、という反論である。発動機の歴史は単に軍事的な歴史ではないことも確かである。しかし、質的モデルを探す代わりに、運動量だけを問題にしすぎる傾向があるのではないだろうか。理想的な発動機のモデルには、労働モデルと自由活動モデルの二つがあると考えられる。労働とは、抵抗に会いながら外部に働きかけ、結果を産み出すために消費ないし消尽される動力因であり、絶えず更新されねばならない。自由活動もまた動力因であるが、克服すべき抵抗に会うこともなく、動体それ自身に働きかけることもなく、結果を産み出すために消尽することなく連続する動力因である。速度の高低にかかわらず、労働の場合、速度は相対的であり、自由活動の場合は、絶対的である(自由活動は永久運動体といってもよい)。労働で重要なのは、「一つ」と見なされた物体(重心)の上にかかる重力の作用点であり、この作用点の相対的移動である。自由活動において重要なのは、いかに物体を構成する諸要素が重力から脱出して、点をもたない空間を絶対的に占拠するかということである。武器とその扱いが自由活動モデルにしたがうように、道具は労働モデルにしたがうように思われる。一点から他の一点への線的な移動は道具の相対的運動を構成するが、空間を渦状に占拠することは武器の絶対的運動を構成する。あたかも武器は動くものであり自己運動的なのに、道具はあくまで動かされるものであるというふうに。道具と労働のこのつながりは、以上ような動力的定義すなわち実在的定義を労働に与えないかぎりは、決して明白にはならない。労働を定義するのは道具ではなく、その逆なのだ。道具は労働を前提にしているのである。それでもやはり武器もまた、動力因の更新、結果を産み出すための消費ないし消滅、外的抵抗との直面、力の移動などをともなうことは否定できない。武器に道具の制約に対立しうるような魔術的力を与えようとしても無駄であろう──武器も道具も同じ法則にしたがっているのであり、これらの法則はまさしく共通の次元を定義するものである。しかしすべてのテクノロジーの原則は、ある技術的要素は、それが前提にしているアレンジメントに関係づけられないかぎり、抽象的であり、まったく無規定なものにとどまるということを、示すことである。技術的要素よりも優先するのは機械である。機械といっても、それ自体技術的要素の集合である技術的機械ではなく、社会的ないし集団的機械、つまり、ある時期に何を技術的要素として取り上げるか、それをいかに使用するか、その内容と適用範囲をどうするか、こういったことを決める機械状アレンジメントなのである。
 系統流が、技術的要素を選択したり、性格を決めたり、発明しさえするのは、さまざまなアレンジメントの媒介にしてなのである。それゆえ、技術的要素がその中に組み込まれ、かつ前提にもしているアレンジメントを定義しなければ、武器についても道具についても、語ることはできない。この意味で、われわれは、武器と道具は単に外的に区別されるわけではないが、だからといって本質的な弁別特徴をもつわけでもない、と言っておいたのである。つまり、武器と道具は、何らかのアレンジメントに組み入れられるのであり、それぞれのアレンジメントに由来する内的特徴(本質的ではなく)があるということである。したがって、自由活動モデルを実現するのは、武器それ自体あるいは武器の物理的存在ではなく、武器と形相因としての「戦争機械〔恋愛機械〕」というアレンジメントなのである。他方、労働モデルを実現するのは、道具ではなく、道具の形相因としての「労働機械」というアレンジメントである。武器は速度ベクトルと不可分であるのに対し、道具は重力の諸条件に結び付けられている、とわれわれが言ったとき、われわれはただ二つのタイプのアレンジメントの差異を指摘したかったのである。たとえ道具がそれ自身のアレンジメントにおいて、抽象的にみてより「速く」、武器は抽象的にみてより「重い」としてもこのことに変わりはない。道具は本質的に力の発生と移動と消費に結びついており、労働の法則によって規定されているのに対し、武器は自由活動にしたがって時空において力を実行あるいは表出することにかかわる。武器は空から落ちてくるわけではないから、当然、生産、移動、消費や抵抗を前提にしている。しかし武器のこの側面は、武器と道具に共通の次元に属するもので、武器の特殊性にはまだ関係していない。武器の特殊性が現われてくるのは、ただ、力がそれ自体において把握され、数と運動と時空のみに関係づけられるとき、あるいは、速度が移動に付け加わるとき、である。このようなものとして武器は、具体的に〈労働〉モデルではなく〈自由活動〉モデルに関係づけられる。たとえ労働の諸条件を満たしていると見なされても。要するに、力の観点からは、道具は〈重力と移動〉、〈重量と高度〉のシステムに、武器は〈速度と永久運動体〉のシステムに結びついている(速度それ自身が「武器のシステム」であると言えるのは、こういう意味である)。」
(ドゥルーズ+ガタリ「遊牧論あるいは戦争機械」)
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